に浮かんでしまった。

に浮かんでしまった。
 
  いかにも江戸っ子らしい行動力である。
 
 桑名少将も、たいがい迷惑だったにちがいない。
 
 のちに再会を果たすとはいえ、朱古力瘤 実兄である会津侯と離れ離れにななってしまう。
 いまこの時点では、果たして生き別れになるのか死に別れになるのかはまったくわからない。
 
 二人にとってこの別れは、それこそ今生の別れになるかもしれないのだ。
 
 桑名少将は、兄とゆっくり別れを惜しみたかったにちがいない。
 
 だが、松本のはやくいきたいという気持ちもわからないでもない。
 
 松本の新撰組贔屓は相当なものである。厳密には、近藤局長と副長に魅入られているといってもいい。
 
 めっちゃくどいようだが、松本と近藤局長や副長は、関係ではない。
 
 近藤局長が死に、副長率いる新撰組がすぐちかくにいる。
 
 是が非でも会いたいって思うだろう。
 
「若松城にいったら、こいつらに土方はここにいるってきいてな。とりあえずはむかえてくれた連中の様子だけたしかめ、桑名少将と桑名藩兵を登らに託してこいつらに連れてきてもらったってわけだ」
 
 松本は、そういいつつ島田と蟻通を二重顎で指し示した。
 
 島田と蟻通は、おれたちのを受けて苦笑を浮かべる。
 
「それで、だ。近藤さんのこと、心からお悔やみ申し上げる。口惜しくって口惜しくってな。何日も眠れなかった。土方、おめぇや隊士たちのことを思うと、よけいに無念だ」
「法眼……」
 
 松本は、ごつい肩をがっくり落として男泣きをしはじめた。
 
 それをみた島田は、鼻をすすりあげている。
 
「詳しくは、二人からきいた」
 
 松本は、二重顎で俊冬と俊春を指す。
 
「斬首などと……。かような理不尽を叩きつけた元凶は、いつか痛い目をみることになる。いや、痛い目にあわされることになる」
 
 かれは、おれたちをみまわしてから言葉を継ぐ。
 
「だが、どこのだれやもしれぬ敵側のではなく、俊冬にやってもらえたんだ。近藤さんも、その点では浮かばれたろう。こればかりは、たとえ身内や親友であろうとけっして成し遂げぬからな。土方、おまえや総司にはけっしてできねぇ。なんてったって、おまえや総司はが弱いからよ。近藤さんもそれがわかっているから、二人に事前に頼んでおいたにちがいねぇ。信がおけて、の強いこいつら二人にな。とはいえ、近藤さんも罪なことをしたもんだ。ってもんは、どれだけしっかりしているようにみえてももろいもんだ。たとえそれはできても、あたえられる衝撃は尋常じゃない。一生ひきずるってことは、近藤さん自身もわかっていたはずだ。それでも頼んだってことは、よほど二人のことをみこんでいたってことだな。それから、わがままをきいてもらえる、甘えられるっていう安心感っていうのか?そういう想いもあったんだろう。土方や総司や斎藤や新八にはみせられねぇことやできねぇことが、俊冬や俊春にはできたってこったろう」
 
 松本の穏やかな声が、朝陽輝く磐梯山をバックに流れてゆく。
 
 じつにドラマチックなシーンである。
 
 かれはゆったりとした足取りで俊冬と俊春にちかづくと両掌をのばし、それぞれの掌で二人の頭を力いっぱいなでた。
 
「ええ。法眼のおっしゃるとおりです。かっちゃんのわがままで、もうすこしでこいつらまで失うところでした。主計や新八らのおかげで、どうにか二人をつなぎとめることができています」
 
 なんてこった。
 
 副長が、おれをの名をだしてくれた。
 
「さて、と。いまさらだが、おめぇら、こみいった話をしていたんじゃねぇのか?」
 
 松本はもう一度俊冬と俊春の頭をなでてから、体ごとこちらに向きなおった。
 
 俊冬も俊春も、うなだれているものの以前のように切羽詰まった感はない。
 
 松本の言葉がかれらにまえをむかせ、その道を照らしたのかもしれない。
 
「ええ、まぁ……」
 
 副長は、おれをちらりとみてから両肩をすくめた。
 
「島田、登たちはくるのか?」
「ええ、もう間もなく。桑名少将を若松城に詰める家老のところに案内してから、すぐにまいるそうです。ああ、才助はまいるかどうかはわかりませんが」
 
 島田が副長の問いに応じると、松本はバツが悪そうに付け足した。
 
「すまねぇな。いっときもはやく会いたくってな。魁と勘吾にさきに連れてゆくよう、急かしちまったんだ」
「それはかまわぬのですが……」
 
 副長は、また苦笑した。
 
 そんななか俊冬と俊春、それから相棒が、またしても丘をのぼってくる道へ

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